山陰沖の歌の語り(17)

第2章、水辺の歌語り 第9節、人麻呂の死(2ー9) 人麻呂終焉の地とは、石見の鴨山、そこには石川が流れ、下っては海に注ぐ。鴨山五首は、水辺に漂う人麻呂の魂を歌い語っている。 鴨山の 岩根しまける 吾をかも 知らにと妹が 待ちつつあるらむ (万葉集 …

山陰沖の歌の語り(16)

第2章、水辺の歌語り 第8節、歌語りの作者(2ー8)。 人麻呂の愛と死の物語は、披露の先々で、人々の涙を誘った。その歌語りは、人々の興趣を掻き立てたから、さらに繰り返しての、その披露が求められた。さらに同種の物語が、人々の求めに応じ、彼の口…

山陰沖の歌の語り(15)

第2章、水辺の歌語り 第7節、愛する人の死 悲恋歌の最たるものは、恋人や配偶者の死を悼む歌、挽歌であろう。人麻呂は自らの妻の死を悼む「泣血哀慟歌」を歌っている。人目を忍んで通った妻が、もみぢ葉のように散っていったと、そのような便りを受け、泣…

山陰沖の歌の語り(13)

第2章、水辺の歌語り 第5節、労働歌から恋愛歌へ(2ー5) 人麻呂は、その歌才をもって労働歌を歌い語った。働く中で、さらに次々と、愛の歌、恋の歌を歌い語った。 長谷(はつせ)の 斎槻(ゆづき)が下に 我が隠せる妻 茜(あかね)さし 照れる月夜に …

山陰沖の歌の語り(12)

第2章、水辺の歌語り 第4節、唱和歌から旋頭歌へ(2ー4) 歌垣で歌われた掛け合いの歌、それは問答歌であり唱和歌である。人麻呂は、歌垣の宴で歌われた唱和歌の伝統を承け、 引き継ぐ形で旋頭歌を歌う。 住吉(すみのえ)の 小田(おだ)を刈らす子 奴…

山陰沖の歌の語り(14)

第2章、水辺の歌語り 第6節、恋愛歌から悲恋歌へ(2ー6) 人麻呂は恋する人との別離の歌も歌う。石見国の官人となり、この国に赴任した彼は、美しい娘子と出会い、恋に落ちた。だが官に仕える身である。任を終え、いざ帰京となれば、こよなく愛した石見…

山陰沖の歌の語り(11)

第2章、水辺の歌語り 第3節、海の若子の物語(2ー3) 海原を流れ来る娘子の物語に対し、海原を越え行く若者の冒険物語も、また歌に語られる。『古事記』には、火遠理(ホヲリ)またの名を穂々手見(ホホデミ)という若者の、海神宮への訪問譚が載る。勇…

山陰沖の歌の語り(10)

第2章、水辺の歌語り 第2節、海の娘子の物語(2ー2) 星の物語、その七夕歌が歌われたように、月の物語、その天女(月娘)の物語も、また歌によって語られる。中国神話では、月宮殿に住む常蛾(じょうが)であるが、日本では羽衣を持つ仙女として、天娘…

山陰沖の歌の語り(9)

第2章、水辺の歌語り 第1節、歌語りの固定(2ー1) 古い昔、この国に文字はなかった。歌の語りは、ただ歌うだけ、ただ語るだけであった。だから歌は口づてにだけ伝わる。それは互いの記憶の中に留め置かれ、折りに触れては、呼び起こされた。その記憶に…

山陰沖の歌の語り(8)

第1章、歌語りの発生 第8節、豊穣の歌語り(1ー8) 歌垣の伝統を残す歓喜の豊饒歌が、隠岐の古記録『伊未自(いみじ)由来記』に載る。木葉唄(このはうた)という。その歌詞は伝承の間に意味不明となっているが、翁(おきな)と媼(おうな)の、男女二…

山陰沖の歌の語り(7)

第1章、歌語りの発生 第7節、愛の歌語り(1ー7) 愛の物語は、昔も今も、男も女も、とても好きである。聴衆は物語の中に入り込み、男の台詞を、また女の台詞を、情緒を込めて歌い語る。 いとこやの 妹(いも)の命(みこと) 群鳥(むらとり)の 我が群…

山陰沖の歌の語り(6)

第1章、歌語りの発生 第6節、歌垣の歌語り(1ー6) 歌は天地の開けしより在ると『古今集』の仮名序は記す。出雲の地で英雄スサノオが歌った三十一文字こそ人の世の始めの歌と、紀貫之は言う。 八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を (…

山陰沖の歌の語り(5)

第1章、歌語りの発生 第5節、鄙(ひな)の歌語り(1ー5) 出雲の海の民は、その「北の大海」を縦横無尽に駆け抜け、各地、各港を、渡り継いだ。そこは、出雲からすれば鄙(ひな)の地、天離る(海離る)鄙の地であった。 天離(あまざか)る 鄙(ひな)…

山陰沖の歌の語り(4)

第1章、歌語りの発生 第4節、交流の歌語り(1ー4) 八千矛神が座す古代出雲は、水陸の要地であった。神門の水海、宍道湖、中海と、出雲を東西に貫く内海により、ここでは安全な水上交通路が開け、栄えていた。 出雲の内海、その西端には三瓶山が聳え、東…

山陰沖の歌の語り(3)

第1章、歌語りの発生 第3節、歌の伝播(1ー3) 西日本海の沿岸地域、その弥生遺跡から、数多くの土笛(陶塤)の出土を見る。山口県下関市の綾羅木遺跡や新張遺跡、山口県豊浦郡菊川町の下七見遺跡、島根県松江市の西川津遺跡やタテチョウ遺跡、鳥取県米…

山陰沖の歌の語り(2)

第1章、歌語りの発生 第2節、楽器の誕生(1ー2) 胎児にとって、胎盤を通して聞く母親の規則正しい心音は、音律を伴い、それだけで心の平穏を呼び起こす。これが原初の記憶となり、生後も、この平穏の音を、心中に深く繰り返す。だから赤子が繰り出す発…

山陰沖の歌の語り(1)

第1章、歌語りの発生 第1節、原初の歌(1ー1) 歌はどこからやってきたのか。赤子が発声を繰り返す中、原初の歌は、その喉の奥から始まっている。韻律を、すでに踏む歌である。 アー、アー、アー ウー、ウー、ウー バブ、バブ、バブ 韻を踏む発声を歌と…

隠岐の相撲(37) [目次]

隠岐の相撲 [目次] 第Ⅰ部、隠岐の宮相撲(Ⅰ) 第1章、隠岐の宮相撲とは(Ⅰ―1) 第1節、水若酢神社の宮相撲(Ⅰ―1―①) 第2節、番付編成の仕組み(Ⅰ―1―②) 第3節、土俵造り(Ⅰ―1―③) 第4節、番付の始まり(Ⅰ―1―④) 第5節、中入の挨拶(Ⅰ―1―⑤) 第…

隠岐の相撲(36)

第Ⅳ部、隠岐の原相撲 第7章、闘争と死(Ⅳ-7) ①順位と縄張り(Ⅳー7ー①) ②死を回避する闘争(Ⅳー7ー②) ③無防備の防備(Ⅳー7ー③) ④闘争の遊戯(Ⅳー7ー④) ⑤礼による秩序(Ⅳー7ー⑤) ⑥規則の遵守(Ⅳー7ー⑥) ①順位と縄張り 相手を傷付ける乱暴激烈…

隠岐の相撲(35)

第Ⅳ部、隠岐の原相撲 第6章、闘争の抑制(Ⅳー6) ①闘争と順位 ②順位制と相撲 ③闘争と構え ④見世物としての構え ⑤構えと儀式 ⑥礼の形成 ⑦相撲に見る和平の礼 ①闘争と順位 闘争の元となるものに、他者への攻撃というものがある。攻撃を仕掛け、他者が逃げて…

隠岐の相撲(34)

第Ⅳ部、隠岐の原相撲 第5章、闘技の価値(Ⅳ-5) ①力くらべ(Ⅳー5ー①) ②力の証明(Ⅳー5ー②) ③力の遊び(Ⅳー5ー③) ④共同体の規制(Ⅳー5ー④) ⑤競技の規則(Ⅳー5ー⑤) ①力くらべ 格闘技「力くらべ」とは何なのか。最初に考え付く理由は、なんと言っ…

隠岐の相撲(33)

第Ⅳ部、隠岐の原相撲 第4章、闘技の起源(Ⅳー4) ①素手と武器(Ⅳー4ー①) ②闘いによる損失(Ⅳー4ー②) ③集団の秩序(Ⅳー4ー③) ④秩序の維持(Ⅳー4ー④) ⑤闘争と遊戯(Ⅳー4ー⑤) ①素手と武器 格闘技の伝統は、どこの国にもある。それはおそらく人類の…

隠岐の相撲(32)

第Ⅳ部、隠岐の原相撲 第3章、裸身の力士(Ⅳ―3) ①裸身の誇示(Ⅳ-3―①) ②力の誇示(Ⅳ-3―②) ③敗北服従(Ⅳ-3―③) ④服従の舞(Ⅳ-3―④) ⑤武装解除(Ⅳ-3―⑤) ⑥服従の裸身(Ⅳ-3―⑥) ⑦服従の力士舞(Ⅳ-3―⑦) ①裸身の誇示 裸身の力士には、鍛え抜か…

隠岐の相撲(31)

第Ⅳ部、隠岐の原相撲 第2章、相撲の発生(Ⅳ―2) ①農事儀礼説(Ⅳー2ー①) ②年占説(Ⅳー2ー②) ③葬送儀礼説(Ⅳ-2ー③) ④贖罪決闘説(Ⅳ-2ー④) ⑤神明裁判説(Ⅳ-2ー⑤) ⑥勝利者権能説(Ⅳー2ー⑥) ⑦演劇説(Ⅳ-2ー⑦) ⑧見世物説(Ⅳ-2ー⑧ ⑨変形進化…

隠岐の相撲(30)

第Ⅳ部、隠岐の原相撲 第1章、普遍の相撲(Ⅳ―1) ①原っぱの遊び相撲 ②力の伝承 ③力の鍛錬 ④力の競技 ⑤素手の格闘技 ⑥相撲のルール ①原っぱの遊び相撲 子供は子供同士、相撲を取って遊ぶ。原っぱに、円く土俵の線を引いて遊ぶ場合もあれば、土俵を引かなくて…

隠岐の相撲(29)

第Ⅲ部、隠岐の舞相撲 第9章、左右の秩序舞(Ⅲー9) ①秩序確立の舞(Ⅲ-9ー①) ②左右の判定(Ⅲ-9ー②) ③左右の力(Ⅲ-9ー③) ④左右の対立(Ⅲ-9ー④) ⑤左右の相撲(Ⅲ-9ー⑤) ①秩序確立の舞 古式相撲は闘技というより儀式である。奉納相撲には、まだ…

隠岐の相撲(28)

第Ⅲ部、隠岐の舞相撲 第8章、相双の舞(Ⅲー8) ①相対する武の舞(Ⅲ-8ー①) ②相対する相撲舞(Ⅲ-8ー②) ③相対する節会相撲(Ⅲ-8ー③) ④中世の相舞(Ⅲ-8ー④) ⑤隠岐の二菩薩の舞(Ⅲ-8ー⑤) ⑥相対する仏の舞(Ⅲ-8ー⑥) ①相対する武の舞 武闘の舞…

隠岐の相撲(27)

第Ⅲ部、隠岐の舞相撲 第7章、武闘の舞(Ⅲー7) ①演武の勇壮舞(Ⅲ-7ー①) ②五方獅子舞(Ⅲ-7ー②) ③破陣の舞(Ⅲ-7ー③) ④被り物の舞(Ⅲ-7ー④) ⑤龍王の舞(Ⅲ-7ー⑤) ①演武の勇壮舞 隠岐の蓮華会では、眠仏之舞、獅子之舞に続き、太平楽之舞が舞わ…

隠岐の相撲(26)

第Ⅲ部、隠岐の舞相撲 第6章、仮面の舞(Ⅲー6) ①獅子の仮面(Ⅲ-6ー①) ②獅子舞の伝播(Ⅲ-6ー②) ③西涼の伎楽(Ⅲ-6ー③) ④胡児人の舞(Ⅲ-6ー④) ⑤獅子から鬼へ(Ⅲ-6ー⑤) ①獅子の仮面 獅子は行道で見る如く、治道の後を進み、伎楽を先導する。治…

隠岐の相撲(25)

第Ⅲ部、隠岐の舞相撲 第五章、渡来の舞楽(Ⅲー5) ①菩薩舞の伝播(Ⅲ-5ー①) ②菩薩蛮の舞(Ⅲ-5ー②) ③伎楽の伝習(Ⅲ-5ー③) ④童子の舞(Ⅲ-5ー④) ⑤牛飼の童子(Ⅲ-5ー⑤) ①菩薩舞の伝播 行列を作り、穏やかに進む行道には、シルクロードを渡り来た…