第1章、歌語りの発生
第1節、原初の歌(1ー1)
歌はどこからやってきたのか。赤子が発声を繰り返す中、原初の歌は、その喉の奥から始まっている。韻律を、すでに踏む歌である。
アー、アー、アー
ウー、ウー、ウー
バブ、バブ、バブ
韻を踏む発声を歌と呼ぶなら、犬や猫でも行っている。
ワン、ワン、ワン
キャン、キャン、キャン
ニャー、ニャー、ニャー
もちろん鳥も歌っている。家鶏ならば、次のようなものであろうか。
コッ、コッ、コッ、コケコッコー
里山で聞く鶯の鳴き声ならば、次のようなものであろうか。
ケキョ、ケキョ、ケキョ、ホーホケキョ
音でありながら、歌にもなっている。それは伝達のしるべ歌、呼び掛けの歌、感情表出の歌である。語り歌は人間だけのものではない。鳥獣においても、すでに語られている。
さて、人間の場合、音の発声は、やがて内容を伴う言葉へと進展する。親が子に言葉を教える場合、語りやすく、聞きやすく、また、おのずと韻を踏む形を取る。
ママ、ママ、ママ
パパ、パパ、パパ
その繰り返す言葉は、律動性を持ち、子の心に刷り込まれる。初めての歌の語り、初めての歌の伝授というべきであろう。だが律動音の記憶は、さらに過去へと遡る。胎児の時に聞く母の心音、その着実な鼓動音こそ原初の歌、そして音の語りである。