山陰沖の歌の語り(57)

第7章、歌の分化

 第3節、田楽の舞

 隠岐島前の美田八幡宮には、古式の田楽舞「十方拝礼(しゅうはいら)」が残されている。十方拝礼とは、四方拝の庶民化、一般化の名称で、衆の結縁を結ぶ拝礼である。四方八方の仏神に、そして天地(あめつち)の仏神に、深く祈りを捧げ、五穀豊穣を祈る古神事の祭礼、つまり感謝祭である。

       

   楽しゅや 十方拝礼 さあ 十方拝礼
   楽しゅや 十方拝礼 いや 十方拝礼
   ろー ろー ろー ろー
             十方拝礼(隠岐国別府 美田八幡宮

 「ろーろーろーろー」とは笛による囃子、その口まねである。ここでは田楽法師が中門口(ちゅうもんぐち)として、また山伏修験が鳥装の四天師(すってんで)として、色鮮やかな衣装扮装で登場する。それぞれ脇侍を従え、鼓・編木(びんざさら)・摺簓(すりささら)・瞽(とう)拍子・笛・囃手(はやして)に合わせて踊る。最後に群舞(総踊り)があり、興奮の中で神事は終わる。よく古式の面影を残している。寺社の境内では、その祭礼の折には、漂泊の宗教者たちは、その経済的余録を分け持とうと、賑やかに、煌びやかに、祭礼をいやが上にも盛り上げていた。

       

  山伏が 頭巾 篠懸 袈裟衣
       山伏踊りを 一踊ろ
  山伏が 腰に下げたる 法螺の貝 いくらが峰を 渡る山伏
       山伏踊りを 一踊ろ
  山伏が 峰入る姿も はたと忘れ
       山伏踊りを 一踊ろ
                  山伏踊り(鹿持雅澄「巷謡編」)