山陰沖の歌の語り(62)

第7章、歌の分化

 第8節、廻国の商人

     面白いは 京下りの商人 
     千駄櫃(せんだびつ)担うて 連れは三人なり
     千駄櫃には 多くの宝が候よ
     宝負ひては 京(きょう)こそ殿が下りた
     都下りに 思いも寄らぬ手土産(てみやげ)

     商人を恋ゆるか 千駄櫃を恋ゆるか
     千駄櫃の中の 花紫(はなむらさき)を恋ゆるよ
     櫃の中なる 芭蕉の紋の帷子(かたびら)
     迷うた花紫の色には 着せいで糸縒(いとよ)り掛けの帷子
                            (田植草紙)

 

 商人が厨子や千駄櫃の中から取り出す、色鮮やかな小物や飾りや帷子は、村の娘たちの垂涎の的であった。彼ら廻国の商人たちは、その商いの品を如何に美しく見せるか、自ら工夫を凝らしていた。豊かな芸能を披露し、煌びやかに飾り、様々な所作の中から品物を取り出し、示し、衆の購買意欲を掻き立てるのである。彼らは 街道を辿り、港湾を渡り継ぎ、遙かな隠岐の地にも、また商品を持ち込んでいた。